3.『アイズ ワイド シャット』
ついにクリスマスまであと一ヶ月。
時空歪んでる?ってくらい早いですね、今年も。
クリスマス映画ってたっくさんあるんですが、今回は
今まで見てきた中で一番衝撃的だったクリスマス映画を。
『アイズ ワイド シャット』(2003)
原題:『EYES WIDE SHUT』
脚本:スタンリー・キューブリック、フレデリック・ラファエル
音楽:ジョスリン・プーク
撮影:ラリー・スミス
原作:アルトゥル・シュニッツラー『夢小説』
実生活でも夫婦だったトム・クルーズとニコール・キッドマンが
ハーフォード夫妻役で共演したことで話題になったが、この後二人は離婚。
この映画の撮影が離婚のきっかけになったとも言われています。
そして、試写完成披露の数日後、スタンリー・キューブリックは急死。
『アイズ ワイド シャット』はキューブリックの遺作となったわけです。
ニューヨークに住む医者・ビル(トム・クルーズ)が、
妻アリス(ニコール・キッドマン)の発言をきっかけに性的な妄想に囚われ
エロい不思議体験をする、というお話。
まあ、これだけだと本当に何それ?って感じなんです。
でもなんだかよくわからない…。
わからないから、何度も見たり、いろんな解説を見漁ったりして、
「あーそういうこと」ってなるまで随分時間がかかりました。
この映画のメッセージを簡単に言ってしまえば、
「いくら夫婦でも見せてはいけない一面があって
そこだけは絶対に触れない方がいいですよ」ってことらしいです。
映画評論家の町山智浩さん曰く、
キューブリック作品の中で一番大事なのはトイレのシーンで、
トイレで用を足すというのは人生を表している
とキューブリック自身考えていたそう。
確かに、この作品の中でも何度もトイレのシーンが出てきます。
ハーフォード夫妻がクリスマス・パーティーに行くために
自宅で支度をしているシーンから始まるんですが、
夫であるビルが鏡で髪の毛を整えている後ろで
妻であるアリスがトイレで用を足している、という場面があるんです。
アメリカとかのトイレって、ホテルみたいに洗面所にもなってるでしょ。
だから、夫が洗面台を使っている真後ろで妻が用を足す
っていう衝撃的な状態なんですけど、これ日本じゃありえないよね?笑
日本ではほとんどの家庭がトイレと洗面所って別々だし、
一緒だったとしても、誰かがトイレを使ってる時は洗面所には入らない!
でも、あまりにも日常的にこのシーンが描かれてるから、
もしかしたらアメリカでは普通にあることなのかな、
と思ったりもしたんですが。
とにかく、初っ端にこういうシーンがあって、
この時点でハーフォード夫妻の倦怠期ぶりが見えてくるわけです。
面白いなあ、、、
そしてこの映画の中で重要なキーワードとなる”フィデリオ”。
この単語は、ベートーヴェンが生涯で唯一完成させたオペラの題名。
このオペラは「忠実」とか「誠実」といったことがテーマになっていて、
”フィデリオ”って言葉にもその意味が含まれています。
物語の中盤、ビルは興味本位で、あるサロンへ潜入。
そのサロンへ入るためのパスワードが”フィデリオ”で、
そこではものすごいエロいことが繰り広げられてるんです。
ビルは、この物語の中で色々な誘惑に遭遇するくせに、
いつも結局浮気できないで終わるのはなんでだろう、
とずっと思っていたけど
これは”フィデリオ”効果だったんだと後から知って納得。
わかりにくすぎないですか、キューブリックさん。
ちなみにこの例のサロンでの儀式のシーン、
『ダ・ヴィンチ・コード』(2006)を思い出した。
実際にキューブリックは秘密結社について
かなり研究をしていたんだとか。
彼の死はそれに関係している、なんて噂もあるほど。こわい。
ー『アイズ ワイド シャット』の音楽ー
この映画の中で、テーマ曲のように使われている音楽が
ショスタコーヴィッチの「舞台管弦楽のための組曲 ワルツ2」。
20世紀のソ連時代にミハイル・カラトーゾフというロシア人監督が
『第一軍用列車』という映画を作り、
その劇判としてショスタコが書いたのがこの曲です。
もともと映画用に書かれている曲なだけあって、
非常に映像的な音楽になっていて、この曲自体とても面白い。
これをキューブリックは上手く映画に取り入れているのです。
『2001年宇宙の旅』(1968)が代表的ですが、キューブリックは
作品の中で既存音楽を使うのがとても上手い。
もう一曲、『アイズ ワイド シャット』の中で
ジョルジュ・リゲティの「ムジカ・リチェルカータ」
という曲も使われています。
これは、パッと聴き音楽とは気づかないレベルのバリバリの現代音楽。
神経質なピアノの連続する音が、緊張感を助長させていて
とても面白い効果を生み出しています。
現代音楽なのに、映画音楽としても違和感なく使える音楽を作り出していて、
さすが、ジョルジュ・リゲティだな、と思いました。
キューブリックの作品はどれも
私がブログで語れるほど簡単なものではないのだけど、
見た後に、必ず頭を殴られたような衝撃を受けます。
わからないことばかりなんだけど、なんかすごいもの見ちゃった
みたいな気分にさせてくれるので大好きです。
今年のクリスマス、
私は家でおとなしく映画を見ることにします。