9.『シェイプ・オブ・ウォーター』
ついに週明けの月曜日はアカデミー賞です。
今年も、何時間もテレビの前から動けなくなるなぁ、と
とても楽しみにしています。
第90回アカデミー賞有力候補作品でもある
『シェイプ・オブ・ウォーター』が本日(3月1日)公開。
早速、観に行ってきました。つい半日前に観たばかりなので
かなり粗い感想になってしまうと思いますが、
あまりにも良い作品だったので、この感動を記録させてください。
『シェイプ・オブ・ウォーター』(2018)
監督:ギレルモ・デル・トロ
脚本:ギレルモ・デル・トロ、ヴァネッサ・テイラー
音楽:アレクサンドル・デスプラ
撮影:ダン・ローストセン
出演:サリー・ホーキンス、ダグ・ジョーンズ、マイケル・シャノン
物語は1962年、ロシアとの冷戦下にあるアメリカ。
政府の機密研究施設に、ある日運び込まれてきた半魚人と
そこで掃除婦として働く口のきけない女性のラブストーリー。
主人公のイライザを演じるのは、サリー・ホーキンス。
最近だと『パディントン』のお母さん役を演じていた女優さんです。
彼女は決して美人というわけではないのですが、とにかく演技が上手い。
このイライザ役は口がきけないという設定なので
劇中ではほとんどセリフがありません。
誰かとコミュニケーションを取るときは、手話と表情で
相手に思いを伝えます。
セリフなしでここまで人の心を動かす演技ができるのか、と
サリー・ホーキンスの演技力に脱帽しました。
おこがましいのは百も承知ですが、”ムビ子主演女優賞”を捧げます。
本当に本当に素晴らしかったです。
イライザを見ていると、本当の意味での「魅力的な女性」というのは
彼女のような女性のことを言うのだな、と思えてきます。
そのくらい、可愛くて美しくて強い。
そして、クリーチャーを演じたダグ・ジョーンズですが
ギレルモ・デル・トロ作品ではお馴染みの俳優。
私は勝手に『ヘルボーイ』に出てくるエイプの前日譚のような
感じかなと思っていたのですが、全く違いました。
エイプよりももっと、野性的で神々しい。
デル・トロは何かのインタビューで、
このクリーチャーのことを”守護神”と言っていましたが、
なるほど、確かに。
魚でもなく人間でもない神に近い存在だったように思います。
この映画の登場人物は、ハンディーキャップを持った女性や黒人、
同性愛者など、その時代のアメリカ(というか世界中)で
ないものと同然にして扱われてきた人たちです。
一方で、この映画の中では、
権力を持った「選ばれし人」は悪者として登場します。
マイケル・シャノン演じるストリックランド。
彼の悪者っぷりったらすごい。ここまでかってほど悪いやつ。
それもギレルモ・デル・トロらしいなと思いました。
ここで悪者に情けを与えて、救済でもしてしまったら
結局、ただのお涙頂戴の感動物語になってしまう。
悪者は徹底的に悪者、それがデル・トロ!好き!
(あまりにも性善説ラストの映画が多い気がする今日この頃です)
監督のギレルモ・デル・トロはメキシコ人。
私、個人的に見た目が大好きなんですが、
とっても可愛いぽっちゃりおじさんです(角野卓三じゃねえよ)。
しかし、彼自身は映画監督として成功するまでずっと
「選ばれなかった人」だったと言います。
唯一の友達は、画面の向こう側の怪獣たちだったそう。
『パシフィック・リム』では日本への愛が爆発してましたね。
(彼は円谷プロの大ファンです)
この『シェイプ・オブ・ウォーター』はそんなデル・トロにしか
描けなかったラブストーリーなのです。
偏見を持たれ続けてきた彼らにこそ本物の美しさがわかる。
そして、イライザだからこそクリーチャーを愛することができる。
この映画は私たちに、
「本当に誰かを愛するということ」
「本当の美しさとは何か」
を訴えかけてるのではないでしょうか。
それこそが多くの人に足りないものなのでは?と。
物語だけでなく、ビジュアル的な面においても
とてもよく作りこまれていたと思います。
イメージカラーのブルー(ティールというらしい)は
水の中を連想させ、60年代というレトロでダークな雰囲気も素敵。
あえて、現代ではなくこの時代設定したことによって
程よい「御伽噺」感が出て、
この映画の世界観により入り込みやすくなっていました。
ー『シェイプ・オブ・ウォーター』の音楽ー
音楽は、『グランド・ブタペスト・ホテル』で
アカデミー賞作曲賞を獲ったアレクサンドル・デルプラ。
素晴らしかったです。
決して音数は多くはありませんが、切なくて美しい。
このメインテーマを聞くだけで、
イライザと半魚人が抱き合うシーンが頭に浮かびます。
イライザは、人一倍音楽に敏感で
テレビでミュージカルを見たり音楽を聴くのが大好き。
彼女の中には、いつも音楽が流れています。
劇中では、実際にいくつもの白黒時代のオールド・シネマの映像が
使われ、古いジャズやシャンソンが映画音楽として使われています。
誰よりも音楽の楽しみ方を知っているイライザは、
もしかしたら誰よりも心が豊かなのかもしれない。
この映画の音楽を通して、そんなことも思いました。
この映画は「美しい」という言葉では簡単に表せないほどの
美しさで溢れていました。
近年見た映画の中でダントツに素晴らしかった。
こんな作品に出会えることって、なかなかないです。
まだ一回しか見てないので、あまりいろんなことは言えませんが
とりあえず今のところ、どこを取っても100点!
これからも『シェイプ・オブ・ウォーター』の魅力を
もっともっと発見していきたいと思います。